いま自社ECを運営するべき理由と市場状況から見る背景や具体的な施策

スマートフォン(以下、スマホ)の普及が進んだことで、人々の生活の一部になったともいえるECサイト。

現在では、Amazonや楽天市場といった有名なモール型ECサイトだけではなく、自社独自のECサイトを構築・運用する企業が増えてきました。

しかし、なぜこの時代に自社ECなのでしょうか。常に新しい技術が開発され、Webにまつわるサービスも増加しています。当記事では自社ECを導入する背景や理由、自社ECを成功に導くポイントを解説します。

【目次】
■なぜいま自社ECが注目されているのか
1.ECの市場規模が拡大し続けている
2.パソコンやスマホから簡単にインターネットへアクセス・決済ができるようになった
3.ECサイトの構築が簡単になった
■自社ECサイトが「難しい」と叫ばれる理由
■自社ECサイトを成功させるプロセスと施策
・1.目標を明確にする
・2.ECサイトを構築する
・3.構築予算を決める
・4.集客・マーケティング
■成功のカギは綿密な計画と選択にあり

なぜいま自社ECが注目されているのか

右肩上がりのカートイラスト

「なぜいま自社ECが注目されているのか」その理由には次の3つが挙げられます。

  1. 1.ECの市場規模が拡大し続けている
  2. 2.パソコンやスマホから簡単にインターネットへアクセス・決済ができるようになった
  3. 3.ECサイトの構築が簡単になった

1.ECの市場規模が拡大し続けている

ECの市場規模は拡大を続けており、2023年以降もさらに大きくなると予想されています。経済産業省の資料『 電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました 』によると、次の結果が出ています。

  • ・2021年(令和3年)の国内BtoCの市場規模は20.7兆円で前年比7.35%増
  • ・2020年(令和2年)の国内BtoBの市場規模は372.7兆円で前年比11.3%増
  • ・2021年(令和3年)のCtoCの市場規模は2兆2,121億円で前年比12.9%増
  • ・EC化比率(全商取引金額に対する電子商取引市場規模)もBtoB・BtoCのどちらも増加傾向
  • ・日本・米国・中国の3か国における越境ECの市場規模は前年比約9~19%増

BtoC-EC市場規模の経年推移

画像引用元:経済産業省『 電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました

データからは国内・海外や企業・消費者間を問わず、あらゆるケースでECの利用が広まっているとわかります。EC市場拡大の要因として挙げられるのは次のとおりです。

  • ・新型コロナウイルス感染症拡大に伴う巣ごもり消費によって、ECの認知度・利便性が消費者へ浸透した
  • ・動画・音楽配信・電子書籍などのデジタルコンテンツが流行した
  • ・決済サービスの技術的な進化や対応範囲の拡大などによって、ECでの取引が容易になった
  • ・リモートワークの浸透やWeb会議システムなどの進化によって、ECによる企業間取引が珍しくなくなった
  • ・ネットオークションやフリマアプリなどの普及で、消費者間でのEC利用も活発化してきた

ECに取り組んでいない企業は、導入することでビジネスチャンスの創出や既存商品の売上増、新しい顧客層へのリーチなどの実現につながる可能性があります。

出典:経済産業省『 電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました

2.パソコンやスマホから簡単にインターネットへアクセス・決済ができるようになった

パソコンやスマホなどの情報端末(デバイス)の普及・進化によって、ECサイトでの決済が誰でも容易に行えるようになりました。

特にスマホからのアクセス・決済が可能となったのが、市場拡大の大きな要因と推測されます。総務省の調査『 第2部 情報通信分野の現状と課題 』によれば、情報機器端末の普及率は2016年にパソコンとスマホが並び、2021年にはパソコン69.8%に対して、スマホ88.6%と普及率に大きな差が生まれました。

情報通信機器の世帯保有率の推移

画像引用元:総務省『 第2部 情報通信分野の現状と課題

また、企業間競争や技術進化によるEC決済サービスの質向上・普及も、EC市場自体の伸びと関係があります。

PayPayなどの電子サービス、携帯キャリア、後払いサービスなど、多彩なEC決済が登場したことによって、これまでECサイトを利用できなかった層も、気軽にインターネットでの取引が可能となりました。

出典:総務省『 第2部 情報通信分野の現状と課題

3.ECサイトの構築が簡単になった

かつて技術面や費用面で構築が困難だったECサイトですが、ECサイト構築に関するさまざまなサービスが登場したことで、大企業はもちろん、中小企業や小規模事業者でも容易にECサイトを構築できるようになりました。

例えば、ECに必要な機能やサーバ管理までひとつのサービスとして提供しているASP(Application Service Provider:エーエスピー)やクラウドSaaSなどのサービスです。これらのサービスを利用すれば、スピーディに自社ECサイトを始められます。

自社ECサイトが「難しい」と叫ばれる理由

パソコンに向かって作業する人

EC市場が拡大していることによって年々取引量も増えてきているのは事実です。

しかし、自社ECサイトを運営する企業が増える一方で「難しくて取り組めない」「ノウハウが不足していて簡単に運営できない」といった声が挙がることも珍しくありません。

自社ECサイトが難しいといわれている理由は次のとおりです。

  • ・Web業界におけるEC人材自体が少ない
  • ・商品やキャンペーンの企画、他社とのタイアップなど、集客施策だけに留まらない、マーケティングの立案・実施・検証・改善が重要になる
  • ・担当者の能力やセンスに任せる比重が多く、人材採用・育成のコストがかかる

既存のシステムや集客力、信頼性、安全性などを利用し、容易に出店できるモール型ECサイト(Amazonや楽天などのショッピングモール)と比較して、初期対応や軌道に乗るまでの労力が多大にかかります。

ただし、自社ECサイトにはモール型にはないメリットがあります。

  • ・利益率が高い(各種手数料がかからない)
  • ・テストマーケや、顧客・購買データの収集・分析がしやすい
  • ・デザイン自由度が高く、ブランディングがしやすい

企業のWeb・EC担当者としては、「なんとか成功させたい」「軌道に乗せるまでのプロセスが知りたい」という方も多いのではないでしょうか。実際に自社ECサイトを成功させるためのプロセスと施策を見ていきましょう。

自社ECサイトを成功させるプロセスと施策

自社ECサイトを成功させるプロセスと施策を目標設定から集客・マーケティングまでの流れで解説します。

1.目標を明確にする

KGI

まずは自社ECサイトによって達成したい目標(KGI)を明確にしておきましょう。

目標の見える化を行い、経営陣から従業員まで目標を共有することで、企業全体が同じ方向を向いて施策に取り組めます。また、取り組むべき課題もはっきりし、具体的な業務として落とし込めます。

自社ECサイトの目標としてオーソドックスなのは売上です。ECサイトの売上を構成するのは次の3つの要素です。

  1. 1.訪問者数(PV、UU、セッションなど)
  2. 2.注文率(CVR)
  3. 3.客単価

KPI設計のイメージ

この3要素は目標を達成する際に重要です。KPI達成のための施策・検証などを行います。

KPI例

  • ・月間の訪問者数を◯人にするためにSEOやSNS戦略に取り組む
  • ・CVRを◯%上げるために、集客した訪問者の属性に合わせたサイト設計を考える
  • ・平均購入金額を◯◯円にするために、商品単価や品揃えの見直しを行う

実際にKPIを設定する際は自社の課題や目標に応じた定量化した内容を意識しましょう。目標やKPIが決まったら「達成するにはどのようなECサイトの構築が必要なのか」を検討していきます。

以下でECサイトのKPI設計についてご紹介していますのでこちらもご覧ください。

ECサイトにおける代表的な3つのKPI例と検証方法

2.ECサイトを構築する

ノートパソコンを使用して作業する男性

自社ECサイトを構築する方法として、ASP・クラウドEC・オープンソース・ECパッケージ・フルスクラッチの5つが挙げられます。それぞれのメリット・デメリットや予算額が異なるので、自社が目指す目標に応じたものを選択します。

選ぶ基準は「規模に合った構築方法を選ぶ」「UI/UX(ユーザーインターフェース・ユーザーエクスペリエンス)を考慮して選ぶ」の2点です。

それぞれの構築方法は拡張性・カスタマイズ性に違いがあるため、自社が求めているUI/UXを実現できるか否かを特にチェックしましょう。

ボタンの押しやすさやサイトの反応速度などに関わるUI設計や、サイト流入から購入、リピートなどの一連の流れでユーザーが得る体験に関わるUX設計は、ECサイトに訪れる訪問者の顧客満足度やリピーター率に大きく関係します。

そのため、「UI/UXデザインを思いどおりにできる拡張性・カスタマイズ性を持っているか」「どこまでUI/UXデザインにこだわるか」などの方針によっても、選ぶ構築方法は変わってくるでしょう。

無料 ASP

ASP

無料 ASPは、インターネットを経由してソフトウェアやソフトウェア稼働環境を提供している事業者、または事業者が提供するサービスそのものです。

ASPはサーバー構築や機能などを事業者側が準備・提供し、企業はそれらサービスを利用します。メンテナンスやバージョンアップも、原則として事業者が実施します。

項目 詳細
メリット 初期費用が無料
スピーディーに導入できる
サーバー構築が必要ない
デメリット 機能拡張やカスタマイズが難しい
売上連動による料率課金が伴う
外部システムとの連携が難しい
サービス例 BASE(ベース)
STORES(ストアーズ)

無料 ASPは、小規模の自社ECサイトの構築・運営に向いています。また、ECサイトの管理・運営の最初の一歩として始めてみるのもよいでしょう。

クラウドEC

クラウド(雲)のイラスト

クラウドECは、他事業者が提供するインターネット上のサービスを利用する、自社ECサイトの構築方法です。ASPと形態が似ていますが、クラウドはASPを提供するための技術そのものを意味します。

EC業界においても、クラウドとASPは別サービスで区別されているケースが多いです。ASPと比較すると、ランニングコストや機能性に大きな違いがあり、ECパッケージとASPの性能を併せ持っているイメージです。

項目 詳細
メリット 豊富な機能が比較的安価に利用できる
自動更新によって常に最新の状態にアップデートされている
自社でインフラを利用する必要がない
デメリット 無料 ASPと比較すると初期・月額がかかる
システムはノンカスタマイズでの利用
サービス例 MakeShop
ecforce
メルカート

豊富な機能性やクイックにECサイトが構築できることから、クラウドECはEC立上げから一定規模の事業者まで幅広く利用されている傾向があります。ECパッケージと同じく、コスト・機能・セキュリティ・サポート体制などをチェックして導入を検討します。

オープンソース

タイピングする男性

オープンソースは、インターネット上で無料公開されているECシステムを基に構築する方法です。

項目 詳細
メリット 技術力があれば自由に開発できるので拡張性・カスタマイズ性が非常に高い
ライセンス料などがかからず初期費用も安い
すでの開発されたテンプレートやオプションを利用できる
デメリット オープンソースなのでセキュリティ面に不安がある
専門知識・技術力がなければ構築できない
サポートがないのですべて自己責任での構築・運用になる
サービス例 EC-CUBE
Magento
Zen Cart

専門知識を持つ人材や技術面のノウハウが存在する企業であれば、他の方法より安価での構築が可能です。構築の際はセキュリティ面での対策も忘れないように注意します。

ECパッケージ

サイトが作られているイラスト

ECパッケージは、ECサイト構築・立ち上げに必要な機能を備えたパッケージ商品を利用して構築する方法です。ベンダー(販売会社)が開発・販売しています。ベンダーごとに提供する商品によって違いはあるものの、受注・売上管理や顧客管理などの機能が始めから利用できます。

項目 詳細
メリット 構築前から優れた機能が備わっている
拡張性・カスタマイズ性に優れている
大規模なECサイト構築にも対応できる
デメリット 初期費用やランニングコストが高い
ASPやクラウドと異なりシステムが古くなる可能性がある
システム開発会社によってクオリティが左右される
サービス例 ecbeing
Orange EC
コマース21

大規模なECサイト構築を検討する場合は、ECパッケージが向いている傾向があります。どの企業のECパッケージを購入するかは、コスト・機能・セキュリティ・サポート体制に加え、システム開発のプロジェクト推進能力や記述力などを総合して考慮し、自社事業に合うECパッケージを選ぶ必要があります。

フルスクラッチ

PHPやJS、HTML5などのイラスト

フルスクラッチは、既存のEC構築サービスに頼らず、1から自社ECサイトを新規で開発することです。サーバーやネットワークシステムなどのインフラも、すべて自社で準備します。

項目 詳細
メリット 既存の基幹システム・管理システムなどに合わせた構築ができる
完全オリジナルの機能・UI/UXデザインが反映できる
デメリット 初期費用・維持費の両方が莫大にかかる
システムが古くなる可能性がある

一番費用がかかる構築方法であり、中小規模のECサイトでは事業規模に対してオーバースペックになる可能性があります。

また、現在はECパッケージやクラウドECでも十分なカスタマイズ性を要していることから、需要は徐々に減りつつあります。完全なオリジナルで構築したい事業者は、フルスクラッチの利用も検討します。

3.構築予算を決める

パソコンと電卓を使用して計算する男性

構築方法が決まったら構築費用を割り出します。導入費や人件費などを考慮した構築方法別の大まかな予算相場は次のとおりです。(デザイン制作の範囲などによって変動します)

項目/構築方法 構築費用の相場
無料 ASP 無料~100万円程度
クラウドEC 100~300万円程度
オープンソース 500~1,500万円程度
ECパッケージ 1,000万円~数億円程度
フルスクラッチ 数千万円~

※エートゥジェイ調べ

目標である売上に対して、サイト構築方法などを検討したうえで、自社ECサイトの構築予算を確定させます。

4.集客・マーケティング

集客・マーケティングのイメージ

自社ECサイトを進める上でもっとも大きな課題として挙がりやすいのは、集客・マーケティングです。

モール型のような他ブランドやサイト機能を利用した集客が見込めないので、始めから自力でECサイトを潜在顧客・見込み顧客に認知させる必要があります。

ECにおける主要の集客方法

主要な集客方法として、次のものが挙げられます。

集客方法 概要
SEO 検索エンジン(主にGoogle)の検索上位表示によって検索ユーザーの流入を狙う方法
効果が出るまで時間がかかるがドメインパワーや記事コンテンツといったストック型資産となる中長期的な施策
SNS InstagramやFacebookなどのSNSによるフォロワー獲得や拡散による認知度向上を狙う方法
バズによる短期的な爆発力と地道な投稿による長期的なファン獲得の両方が狙える施策
Web広告 インターネット上での広告出稿で認知度+顧客流入を狙う方法
フィード広告、リスティング広告、ディスプレイ広告、動画広告、アフィリエイト広告などで短期的かつ大規模なWeb広告戦略が打てる

ECサイトの認知度・流入数を増やすためには、SEOで自社オウンドメディアを上位表示させてオウンドメディアからECサイトの導線を作ったり、メルマガ・LINE登録を利用した顧客リスト構築したりするなどの方法も考えられます。

さらに、YouTubeを利用した動画マーケティングを実施することで、文字・静画では伝わりにくい魅力を動画を通じて伝えられます。

システムやツールの活用

自社ECサイトの分析などサポートするシステム・ツールを使うことで、マーケティング分析の精度や施策立案数の増加を期待できます。自社ECサイトで活用しやすいシステム・ツールは次のとおりです。

システム・ツール 概要
visumo(ビジュモ) Instagram上の投稿写真やYou Tube動画などをECサイトに埋め込み、ビジュアル面でのコンテンツ拡充を行うサービス
カゴ落ち対策ツール ECサイト上で商品をカートへ入れたにも関わらず、購入せずに離脱する「カゴ落ち」の改善・対策をサポートするサービス
接客ツール チャットボットなどのECサイトへ訪れたユーザーに声をかけて、購買やお問い合わせを後押しするAIを活用したシステム

チャットボットなどのECサイトへ訪れたユーザーに声をかけて、購買やお問い合わせを後押しするAIを活用したシステム

DtoCによるサイト構築

D2Cのイラスト

DtoC(Direct to Consumer)とは、代理店やモール型のプラットフォームなどのさまざまな仲介業者を通さず、メーカー自らが消費者へ直接商品などを販売するビジネスモデルです。

SNSや動画サイトを通じてメーカーと消費者が直接コミュニケーションが取れる時代において、中間マージンや規約による制限が発生しないDtoCの手法が注目されています。

リアルな流通に乗せる前に自社ECでテスト販売して商品開発にフィードバックするなど、Webならではの取組みも可能になってきます。

店舗と連携したO2O

パソコンとスマホから購入できるWebサイト

O2O(Online to Offline)とは、オンラインで情報発信を行い、集客したユーザーをオフラインである実店舗へ誘導するマーケティング施策のことです。

EC市場の拡大が進んでいる昨今、逆に実店舗でのビジネスにも再注目が集まっています。実店舗での販売は、体験価値を提供したり、商品・サービスの魅力を五感に訴えかけたりできるため、インターネット上の取引では難しい価値を与えられます。ECサイトの構築はインターネット上での売上を出すだけでなく、O2Oを意識した施策を行うことで、実店舗へ足を運ぶ新規顧客を獲得しやすくなるメリットがあります。

また、期間限定割引券などをメルマガやSNSなどで発行してすぐに購入してもらうなど、即効性のある施策を出せるのもO2Oの特徴です。自社ECサイトの構築・運営がある程度軌道に乗った後は、実店舗の会員とEC会員を連携したり、相互集客などの取組みも検討してオンライン・オフラインでのビジネスチャンス拡大を狙ってみましょう。

成功のカギは綿密な計画と選択にあり

自社ECサイトの構築は、オリジナルブランドの育成や利益率などの面でメリットが多く、自社の売上・利益向上に大きな効果があります。拡大を続けるECの市場状況から見ても、自社ECサイトによって今後も多くのビジネスチャンスを掴める可能性は高いです。

自社ECサイトを成功させるには、自社事業に応じた目標・構築・予算・施策立案などを行うことが大切です。しかし、適切なKPI設定や分析・検証は難易度が高く、またECサイトの構築にはある程度のレベルの技術者も必要になります。

もし「自社ECサイトに取り組みたいけど、ノウハウや人材的に厳しい」という場合は、総合的なコンサルティングを一括で任せられる企業への相談・依頼も検討してみてください。

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