
パッケージやASP、オープンソースなど、ECサイト(インターネットショップ)にはさまざまな構築方法があります。中でも、近年増えてきているのが“クラウドEC”です。
自社でECサイトの構築を検討しながら、「クラウドECが適しているのかわからない」「その他の構築方法と比較してどのような特徴があるのか知りたい」と考える担当者の方もいるのではないでしょうか。
ここでは、クラウドECの概要やメリット、他の構築方法との違い、どのような企業にクラウドECが適しているのかなどを解説します。
【目次】
■クラウドECとは
■その他の構築方法との比較
■クラウドECサービスの比較
■クラウドECのメリット
・システムの自動アップデート
・インフラの用意が不要
・高いセキュリティ
・ 一時的にサーバーを増強することが可能
・短期間で導入可能
■クラウドECのデメリット
■クラウドECはこのような企業におすすめ
・年商一千万円以上の企業
・運用にリソースを割くことが難しい企業
■クラウドECサービスの選定方法
・目的を明確にする
・自社商材との相性
・ベンダーのサポート体制を確認する
■社内リソースが不足している場合はクラウドECがおすすめ
クラウドECとは
クラウドECとは、クラウド上のプラットフォームを使ってECサイトを構築するサービスです。
ショッピングカートや決済機能、顧客管理、受注管理など、ECサイト運用に欠かせないシステムを自社のサーバーにインストールすることなく、インターネット経由で利用できます。
システムはサービスを提供するベンダーによって自動的に更新が行われ、長期的なコストパフォーマンスに優れているのが特徴です。
その他の構築方法との比較
ECサイトを構築には、クラウドECのほかにASPやパッケージ、フルスクラッチがあります。
具体的に、どの構築方法が優れているのかわかりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。クラウドECとそれ以外の主な構築方法の費用感や特徴は以下の通りです。
▼4つのECサイト構築方法の比較表種類 | クラウドEC | 無料ASP | パッケージ | フルスクラッチ |
特徴 | ・セキュリティ性や外部連携などの拡張性に優れる ・アップデートが自動で行われる |
・費用は売上に対する料率のみで固定費無しで始められる ・短期間で導入できる |
・カスタマイズ性に優れる (システム改修には別途費用が必要) ・必要な機能を個別に追加できる |
・コストがかかり導入期間も長い ・カスタマイズ性は最も優れる ・自社で各種インフラの整備が必要 |
初期費用 | 数十万円~ | 無料 | 数百万円~ | 数千万円~ |
月額費用 | 数万円~ | 売上に対する料率 | 数十万円~ | 数十万円~ |
導入期間の目安 | 2~4ヶ月ほど | 最短1週間ほど | 最短5ヶ月ほど ※カスタマイズによって異なる |
最短1年ほど |
なお、クラウド上でシステムが管理されており、ベンダーが用意するサーバーやアプリを利用してECサイトを構築するという点は、ASP型のカートシステムと変わりません。構築方法ごとのより具体的な違いや特徴については、以下の記事も併せてご確認ください。
ECサイトの構築方法と各プラットフォームの特徴を初心者にもわかりやすく解説
クラウドECサービスの比較
日本国内のクラウドECサービスの例としては、メルカートやebisumart、aishipR、MakeShopエンタープライズなどが挙げられます。
▼クラウドECサービスの比較表ECサービス | 特徴 |
メルカート | ・カスタマーサクセスなどの支援が充実 ・デザイン制作やマーケティング支援までワンストップで行っている ・分析や販促・CRMの機能が充実 |
ebisumart | ・拡張性が高く、複雑なシステムの連携にも対応できる ・自社のサーバーが不要 ・週に1回のアップデートで常に最新版を使用できる |
aishipR | ・レスポンシブに完全対応している ・独自機能の追加ができる ・スマートフォン・タブレットにも対応 |
MakeShopエンタープライズ | ・外部の基幹システムと連携できる ・機能やセキュリティが無償でアップデートされる |
クラウドECのメリット
パッケージやフルスクラッチ、ASPなど、ECサイトの構築方法はクラウドEC以外にもさまざまな種類があります。
クラウドECサービスを使ったECサイト構築には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
システムの自動アップデート
前述の通り、クラウドECのシステムはベンダーによって自動でアップデートが行われます。
パッケージやフルスクラッチなどで構築したECサイトの場合、構築から時間が経つとシステムが古くなってしまいます。定期的に大規模なシステム改修を迫られ、結果として莫大な追加コストが発生する可能性もあるでしょう。
一方で、クラウドECならシステム改修を自社で行う必要がなく、常に新しいシステムを使うことが可能です。追加機能も自動アップデートされるので、中長期的に見ると他の構築方法よりもコストを削減できる可能性があります。
インフラの用意が不要
パッケージやフルスクラッチ、オープンソースでECサイトを構築する際はシステムをインストールして自社でサーバーを調達したり、サーバーの保守管理を行う人員を配置したり、各種インフラの整備が不可欠です。
クラウドECの場合は、システムがベンダーの提供するクラウド上にあり、インフラの保守整備を自社で行う必要もありません。サーバー保守作業が不要な分、ECサイトの運営業務に専念することができるでしょう。
高いセキュリティ
システムの自動アップデートによりセキュリティも常に最新の状態に保たれるため、セキュリティ面でも優れています。
特に、セキュリティ要件が高い企業が採用しているクラウドECの場合は、その企業のセキュリティ要件をクリアしているサービスという見方もできます。いちからセキュリティ対策をせずともクラウドECであれば高いセキュリティが担保されるということです。
顧客の住所や氏名など、多くの個人情報を取り扱うECサイトにおいて、高いセキュリティが期待できるのは大きなメリットと言えるでしょう。
一時的にサーバーを増強することが可能
サーバーの増減を設定できる点も、クラウドECのメリットのひとつです。
セールを行う際やキャンペーンを行う際など、一時的なアクセス増加が見込まれる場合は、事前にサーバーを強化したり、CDNの対応などにより、サーバーダウンが原因の販売機会の損失を防げます。
短期間で導入可能
初めからECサイトに欠かせない基本的な機能は備わっているので、3ヶ月ほどで導入できます。
デザイン制作や社内の承認などによって変動はあるものの、パッケージをカスタマイズしたり、フルスクラッチでいちからサイト構築を行ったりするのに比べれば時間はかかりません。
スピード感が求められるECサイトにおいて、短期間で導入できるのは大きなメリットと言えるでしょう。
クラウドECのデメリット
メリットが多いクラウドECですが、デメリットがまったくないわけではありません。
例えば、ベンダーによって違いはあるものの、初期費用や月額はASPなどに比べるとコストがかかります。中長期的に考えるとコストパフォーマンスに優れる一方で、導入する際はある程度の資金力が不可欠です。
また、システムのソースコードは開示されておらず、自社での保守管理は不可能です。自社でシステムの保守管理を行うことが必須の企業だと、導入は難しいでしょう。
クラウドECはこのような企業におすすめ
これまで説明してきた通り、クラウドECはすべての企業で導入すべきシステムとは言えません。ここからはどのような企業にクラウドECの導入がおすすめかを紹介します。
年商一千万円以上の企業
クラウドECの導入が適しているのは年商数百万円以上の企業です。売上の見通しが全く立たない場合やテストマーケティングとして一時的にECサイトを設けたい場合などには、初期費用や月額費用の固定費が掛からない無料ASPの利用が向いていると言えます。
一方で売上に対して料率での支払いが発生する為、ECによる年商が一定以上ある場合はその限りではありません。
また、ECによる年商の規模が大きな企業では、オーダーメイドでシステムの構築や機能追加を行えるフルスクラッチや、カスタマイズ可能なパッケージが向いていると言えます。
運用にリソースを割くことが難しい企業
クラウドECは、自社で運用にリソースを割くことが難しい企業にもおすすめです。
理由として、クラウドECのメリットである、運用に手間がかからず、費用対効果が高い点が挙げられます。自社でサーバーをはじめとしたインフラを用意する必要がないため、サーバー構築に関する専門的な知識を持つ人員の獲得も不要です。
また、システムやセキュリティのアップデートが自動で行われることにより、常に最新版を使用できます。そのため、サーバー保守やセキュリティ対策にかかる社内リソースを抑えてECサイト運営が実現可能です。
クラウドECサービスの選定方法
クラウドECは、さまざまなベンダーがサービスの開発・提供を行っています。自社に適したサービスを決めるためには、事前に選び方のポイントを押さえておくことが重要です。
サービスを選定する際に注意したいポイントをご紹介します。
目的を明確にする
はじめに、ECサイトでどのようなビジネスを展開したいのか、どのような位置付けにしたいかなど、ECサイトの目的を明確にします。そのうえで、サービスの拡張性や追加機能、カスタマイズの自由度などを確認しましょう。
また、目的を明確にすることで、ECサイトのコンセプトやテーマを決めやすくなるほか、自社にクラウドECが適しているかどうかも判断しやすくなります。
例えば、「目的を達成するために、今すぐECサイトの立ち上げが必要」という場合には、最短で導入できる無料ASPでECサイトを構築した方が良い場合もあります。
自社商材との相性
自社商材との相性を確認することも大切です。高性能なクラウドECでサイト構築を行ったとしても、自社商材との相性が良くなければ、効果を最大限期待することは難しいと言えます。
ギフト需要にご利用頂きたい商品であれば、複数配送先の設定や、水挽、熨斗、名入れなどの機能が必要になりますし、定期向けの商品であれば、配送間隔の設定や定期商品の変更が柔軟に変更できる機能などです。
また、クラウドECサービスの導入事例や過去の実績などを確認することもひとつの方法です。
ベンダーのサポート体制を確認する
システム導入後のマーケティング支援まで行ってくれる、操作方法の質問に適宜対応してくれるがメールのみなど、クラウドECはベンダーごとにサポート体制の充実度が異なります。
サポートと一口に言っても、ヘルプデスク的なカスタマーサポートもあれば、売上を上げていくためのオンボーディング支援まで無償で行っているサービスもあります。ベンダーがどこまでサポートしてくれるのか、どんなサービスに強みを持っているのかを事前に確認しどのようなサポートを求めているかも比較検討のポイントにするのも良いでしょう。
サポートが手厚いベンダーなら、自社の運用体制が整っていなかったり、初めてEC運営に踏み切ったりする場合でも安心です。
社内リソースが不足している場合はクラウドECがおすすめ
クラウドECは、システムの自動アップデートや高いセキュリティ、保守管理作業が不要など、運用の手間がかかりにくく、パッケージなどに比べると初期費用やランニングコストの面でも優れています。
ECサイトの新規構築やリニューアルを検討しているものの、無料ASPでは求めているサイトが作れない、パッケージはコスト的に手が出しにくいと感じている場合は、クラウドECを検討してみてはいかがでしょうか。